夢の国産強力小麦「ゆめほわいと」誕生へ。パン職人たちが待ち望んだ新品種

夢の国産強力小麦「ゆめほわいと」誕生へ。パン職人たちが待ち望んだ新品種

「『ゆめほわいと』でパンを試作した数人の職人さんが、『これはパン屋が待ってた小麦だ』って言ってくれたんです。その時に、『これはきっとたくさんの方に支持していただける小麦になる』、そう確信しました」

株式会社山本忠信商店(ヤマチュウ)の山本マサヒコ専務は、笑顔でそう話します。

「パン屋が待ってた小麦」とは、2026年2月現在、農産物規格規程の一部改正により、「産地品種銘柄」の通知が下りるのを待っている新品種「ゆめほわいと」のこと。「ゆめほわいと」は製パン性に優れ、カナダ産 No.1 クラスの強力小麦「No. 1 Canada Western Red Spring(1CW)」に匹敵する評価を得ると期待されている小麦です。

しかしながら「優良品種」の採用にはあと一歩及ばず、品種にならない可能性がありました。そこで立ち上がったのが、ヤマチュウの山本専務。試験栽培を通して、「ゆめほわいと」に大きな可能性を見出していた生産者とプロジェクトを推進してきました。

その「ゆめほわいと」とは一体どんな小麦なのか、たっぷりとお話を聞きました!

「ゆめほわいと」は北海道の麦作の未来を守るために生まれた品種

——はじめに、「ゆめほわいと」が開発された背景について聞かせてください。

「実は今、北海道の麦作は大きな危機に直面しているんです。『ゆめほわいと』は、その危機を乗り越えられる可能性を秘めた品種なんですよ」

——危機とはどういうことですか?

「道産小麦の主力品種に『きたほなみ』という小麦があるんですが、これが『縞萎縮病(しまいしゅくびょう)』という病気にとても弱い品種なんですね。改良品種の開発も進んでいるけれど、それも縞萎縮病とは別の病気への抵抗性が十分ではありません。

 さらに、気候変動の影響で、こうした病害がもっと広がるかもしれない。最悪の場合、北海道の麦作全体が壊滅的な打撃を受けるリスクもあるんです。

 それがわかった当時、萎縮病に強い品種は超強力のゆめちから』しかありませんでした。だったら、病気に強くて生産者と消費者の両方にとって有益な品種を作ろうと、農研機構 北海道農業研究センター(北農研)が育成したのが『ゆめほわいと』なんです」

——なるほど、病気に強くて育てやすく、今後の気候変動にも耐えうる可能性がある品種ということなんですね。

「そうです。『秋蒔き小麦』であることも特長です。秋蒔き小麦は9月から10月初旬に種を蒔き、翌年の7月中旬に収穫するんですが、天候に左右されやすい春蒔きより品質が安定しやすく、収量も高くなることが期待できるんです」

——収量が多くなるということは、今までの小麦より安く買えるかもしれないということですか?

「現時点ではハッキリ言えないのですが、今後はそうしたメリットも出てくるかもしれないですね」

——もしそうなれば、パン職人さんにとっても消費者の私たちにとっても嬉しいですね! では、ヤマチュウが「ゆめほわいと」に関わることになったきっかけについて教えていただけますか。

「実は、『ゆめほわいと』が世に出るまでにはかなり紆余曲折がありました。北海道では、小麦の品種を普及させるのにまず『優良品種』に採用される必要があるんですが、『ゆめほわいと』はその採用から外れてしまったんです。理由は、『ゆめちから』と同等の収量性がありながら『ゆめちから』を超えることができなかったから、ということでした」

——優良品種に選ばれるには、相当高いハードルをクリアする必要があると。

「そうなんです。ただ、北農研としては想いをかけて育成した大切な品種。生産者団体と相談した際に、生産者団体から『産地品種銘柄』に設定されれば、『ゆめほわいと』を世に出せるんじゃないかという話が持ち上がったんだそうです。そこで、産地品種銘柄の流通に実績があるヤマチュウが協力することになったというわけです」

——そんな経緯があったのですね。優良品種と産地品種銘柄とでは、何が違うのでしょうか?

「優良品種と比べて、運営上の負担が大きいというのはありますね。それでもこの道を選んだのは、『ゆめほわいと』の品質への確信と、北海道の麦作の未来への責任感があったからです」

「パン屋が待ってた小麦」と言わしめた製パン性の高さ

——「ゆめほわいと」を使うパン職人さんにとっては、どんなメリットがありますか?

「まず、病害の影響を受けにくいので、安定して仕入れられること。それから、品質が高く製パン性に非常に優れていること。そして、独自性の高い製品が作れるというメリットがありますね」

——製パン性が高いというのは、具体的にどういうことなのでしょうか。

「パン業界では昔から、小麦の製パン性を測るときにカナダ産小麦の『1CW』を基準にしてきました。1CWは品質が世界トップクラスとされる小麦なんですが、『ゆめほわいと』はそれとほぼ同等の数値が出ているんです」

——製パン性の基準になる小麦と同じくらい! それはすごいことですよね?

「そうなんです。これまでのパンづくりでは、食パンや菓子パンで最高の品質を目指そうとすると、どうしても輸入小麦に頼らざるを得なかった。国産小麦は風味や食感に独自の良さはあるんだけど、製パン性という点では輸入品にどうしても一歩譲る、というのが長年の常識だったんですよね。ゆめほわいと』は、その常識を変えるかもしれません


「しかも、国産小麦が持つ独自のもちもち感もあるんです。1CWと同等の製パン性を持ちながら、日本人好みの食感も出せる。この両立が大きいと思っています」

——それは楽しみです!

北海道産小麦だけでパンを作る夢が、ついに現実に

——「ゆめほわいと」は、どんなパンを作るのに向いてるのでしょうか?

「試作に関わった職人さんたちからは、ブリオッシュが非常においしくできるという声をもらっています。ブリオッシュはバターや卵をたくさん使うリッチな生地ですが、小麦粉と油の相性が仕上がりをすごく左右するんです。『ゆめほわいと』はそこが際立って良く、生地の伸展性と風味のバランスが絶妙だという評価をもらいました。

 それから、すごく嬉しい話がひとつあるんです。ある職人さんが、北海道産の小麦だけでパンを作りたいという長年の夢が、ようやく現実になった。これはパン屋が待ってた小麦だ』って言ってくれたんですよ。これはきっとたくさんの方に支持していただける小麦になるぞ、と確信しました」

——職人さんたちも発売が待ち遠しくなるような話ですね。 品種名に「ほわいと」がついているということは、小麦粉の白さが特徴なのですか?

「これはね、実は穂の色のことなんです。普通の小麦の穂って一般的に褐色がかった色をしているんですが、『ゆめほわいと』の穂は白く輝くんですよ。穂が白いから、『ほ(穂)わいと』。『ゆめ』というのは、『ゆめちから』『ゆめちから2020』と続いてきた品種群の系譜を受け継いでいることを示しています。この名前は農研機構の女性研究者が付けたんですが、業界関係者からも『非常にいい名前だ』という声が多いんですよね」

——確かに、すっと頭に入ってきます。

「難しい専門用語でもなく、産地名でもなく、品種の特徴を詩情豊かに表現した名前というか。『夢・穂・白』って、長年の研究への愛着と、日本の小麦農業への希望が込められている感じがしませんか? 消費者にも覚えてもらいやすそうな名前だな、と思っています」

「ゆめほわいと」待望の発売へ、カウントダウン開始

——「ゆめほわいと」の発売がどんどん楽しみになってきました! 今は「産地品種銘柄」の承認待ちということでしたが、発売はいつ頃になる予定なのでしょうか?

「2026年4月に産地品種銘柄の承認が下りた場合、2026年の収穫を目指した動きが加速する見通しです。そうすると、発売は2027年の春頃か、早ければ年明けになると思います。

 農研機構との連携で、製パンデータに加えて加工特性に関する詳細な評価レポートも順次公表される予定です。来月3月には、生産者向けの勉強会も開催します。すでに試作に携わった職人たちからは『発売されたらすぐに使いたい』という声も上がっているので、皆さまにお届けできる日が待ち遠しいですね」

——今日のお話を聞いて、期待がふくらみました。お話いただき、ありがとうございました!

 

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